【緊急声明】高額療養費制度の見直しは一部修正ではなく「撤回」を

高額療養費制度見直しの撤回を求め、内閣総理大臣、厚生労働大臣、各国会議員に対して以下の緊急声明を発表しました。

 

高額療養費制度の「見直し」は「一部修正」ではなく撤回を

患者が窓口で支払う一部負担金に自己負担限度額を設ける高額療養費制度について、今年8月から段階的に引き上げる「見直し」が2025年政府予算案に盛り込まれ、国会での審議が行われている。

各所得区分を細分化し自己負担限度額を段階的に引き上げる計画となっており、引き上げ額に差はあるものの全ての所得区分において引き上げられる。例えば、70歳未満の平均所得層の最も高い区分(年収約650~770万円)の場合、現行の約80,100円から、2027年8月以降の最終引き上げ後は、約13万8,600円へと月額5万円以上の大幅な引き上げとなっている。

高額療養費制度は、医療費の家計負担が重くならないよう、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費に上限額を設ける制度であり、高額な医療費を理由に治療を諦めることがないようにセーフティネットとして作用する重要な制度である。一部の患者だけが適用されるわけではなく、全世代・全国民がいつ手術や入院が必要な疾患にかかっても活用できる重要な命綱である。

今回の見直しで患者団体や国民などから強い反対の声があがり、2026年度以降の所得区分の細分化は再検討することや、「多数回該当」については現行の自己負担限度額のまま据え置く修正案が検討されている。多数回該当は、高額療養費制度を直近12カ月で4回以上利用した場合、4回目以降は限度額を引き下げる取扱いであるが、多数回該当の前提となる1回ごとの自己負担限度額は今回の見直しによって引き上げられることとなるため、これまでよりも多数回該当の対象になりにくくなるとともに医療費負担は増加することとなる。多数回該当の利用者は155万人、外来特例を除く高額療養費制度の利用者は795万人と明らかにされており、多数回に該当しない高額療養費制度の利用者(年1回から3回)は、640万人である。また、治療計画や副作用による休薬などで「多数回」にならない場合もあり、長期療養しているからといって必ず多数回該当の対象になるとは限らない。

今回の自己負担限度額の引き上げは、2024年12月25日、2025年度予算編成に向けた福岡資磨厚労相と加藤勝信財務相の大臣折衝で合意がなされ進められているが、国民全体に大きな影響を及ぼす見直しであるにもかかわらず、制度利用者・患者団体へのヒアリングなどの実態調査を行わず、国会審議を経ないまま進められた点についても大きな問題がある。

厚労省社会保障審議会・医療保険部会(2025年1月23日)の資料によると、高額療養費制度の見直しで生じる給付費減少のうち、患者負担が増加すると受診控えにより医療費が削減される、いわゆる「長瀬効果」による減少分として約2,270億円を見込んでいることが示されている。厚労省の試算において、受診抑制や患者が治療を諦めることを見積もっていることは極めて重大な問題であり、国民皆保険制度への信頼を壊すものである。

そもそも闘病しながら一定の収入を得ることは非常に難しく、医療費負担は家計に深刻な影響を及ぼすものである。高額な医療費を理由に治療を諦めない、治療を断念せざるを得ないと思わせないためにも、多数回該当のみを一部修正したり、2026年度以降の所得区分の細分化を再検討したりするのではなく、高額療養費制度の「見直し」そのものを撤回するべきである。

2025年3月7日
福岡県保険医協会
会長 林 裕章